板に筆書きした古い表札(看板)を修復

町内の自治会館の看板が古くなって文字が見えなくなり、更新の時期を迎えています。
「板は削ったら再使用できるのでは」という提案があり、かって表札を手作りした経験がある私が修復することになりました。

下調べと方針決定

以前、表札を手作りした技法

下記記事で紹介しているように、筆字の表札を手作りしました。

表札を手作りしてみた
町内の自治会館の看板が古くなって文字が見えなくなり、更新の時期を迎えています。「板は削ったら再使用できるのでは」という提案があり、かって表札を手作りした経験がある私が修復することになりました。

文字の縁を彫刻して立体的に見せるもので、字を書くのが苦手でもできる方法です。今回もこの方法を応用します。

表札の由来と現状

この表札は、昭和60年に新築の公民館(自治会館)の竣工に合わせて作られた玄関の表札看板です。白木板に筆で手書きしたものです。書いたのは義父(故人)であることが、字の特徴からすぐわかりました。

板の材質はクスノキ

大きさはざっと幅28cm 長さ105cm、厚さ3cmぐらいで、近くの山のくすのき(樟、楠)を製材した物だそうです。

くすのき

生のクスノキは、木全体から樟脳の香りがします。防虫剤や医薬品等に使用される樟脳は、クスノキの枝葉を蒸留して作られる固体なのです。

このようにクスノキは防虫効果があり、木肌は緻密で耐湿・耐久性に優れているので、表札の材料に適しています。

元の文字が消えて判別できないところがある

この表札は30年以上も経過して板が中央が凹む方向に大きく反ってきており、書いてある文字は写真のように薄くなっています。実はこれでも文字がわかるところを鉛筆やマジックで縁取りした後であり、まったく判別できない所もあります。

当時表面の防腐処理はせず、素朴に直接字を書いただけのものらしく、雨が吹き込む所に設置してあったのでこんなものでしょう。

元の筆字を生かしたい

以前の表札のときはパソコンで印刷した文字を転写しましたが、今回は元の手書き文字を生かしたいと思いました。しかし消えて判別できない文字をどうするかが問題です。

当時の写真を探す

義父のアルバムで当時の写真を探してみると、看板が写っているスナップ写真がありました。これで書いてある文字は全て判明しましたが、写っている表札が小さく、拡大しても文字を転写できる程の精細度はありませんでした。

表面を少しペーパー掛け

荒れていた表面をサンダーで少し削ってみたところ、写真のように木目が出てきて、文字もくっきり見えてきました。文字があるかどうかもわからなかった「町」の字もわかるようになりました。

文字(墨があったところ)は劣化が少なく、無いところは劣化して低くなっているので、削ると少し高い文字部分が浮き出てきたのです。

これで推定で補完しなければならない所はごく一部で、全体として元の文字をそれらしく再現できる見通しがつきましたので、修復作業にかかります。

遺品の彫刻刀を頂いた

この看板の修復するにあたり、「使ってください」と地元の大工さん(故人)の遺族から、写真の彫刻刀を頂きました。文具の彫刻刀より大型の細工用ノミです。

当時の関係者でもある大工さんの遺品なので是非にも彫刻にはこれを使うことにします。

修復作業

文字の下書き

墨汁筆まず下書きの文字を書きます。

使ったのは義父が使っていた右の筆と墨汁です。

基本、元の字がはっきりしているところはその通り墨を入れ、消えて見えない所は推定で補います。

画数の少ないダイナミックな文字はそのまま、画数が多くバランスの悪さが目立つところ(お義父さん、ごめんなさい)は修正しました。

文字の輪郭を彫刻(仮)

次のサンダーでの表面研磨行程で下書きした文字が消えないために、文字の輪郭を彫ります。この段階では消えない程度でよく、それほど深く彫る必要はありません。

30年経過した古板なのでささくれて彫りにくい面もありましたが、クスノキなのでまだ良かったです。欅(けやき)だと硬すぎて彫れないかもしれません。

サンダーで表面を綺麗に

充電式サンダー

次に板の表面処理を行います。

板が反っていてカンナは使えませんので、右写真のサンダーを使いました。木肌が白く綺麗になるまで削りましたが、古い材なので前後の写真のようにひび割れのような筋が残り、完全につるつるにはなりません。

この筋をとの粉やパテで埋めることも考えましたが、筋があった方が年代を感じさせ味があると思い直し、平滑処理はせずこのままにすることにしました。

文字の彫刻(本番)

次に文字の彫刻をします。

文字の輪郭を垂直に、そこから文字の内側を斜めに、断面がレ型になるように彫ります。つまり、文字の断面が横長の台形になります。

もっと本格的には、断面の形がかまぼこ型になるよう深く彫ると筆字らしく丸みのある形で浮き出てきますが、今回はそこまではしません。

【参考サイト】

木製看板の作り方/工房七瀬

墨入れ

彫刻ができたら、墨汁と筆で墨入れをします。

最初、滲まないかと心配しましたが、木の材質によるものか、墨汁の材料によるものかはわかりませんが、裏面で試したところ全然大丈夫でした。もし、滲む場合は、木に直接墨入れせず、下塗りが必要でしょう。

境目の彫刻部は斜面側(文字側)だけに塗りますが、多少垂直面についても問題ありません。意地悪な方向から注視すれば別ですが、通常正面方向から見たところわからないのです。

柿渋で表面塗装

表札は軒先の浅い玄関に設置しますので、雨がかかります。長持ちさせるには表面塗装が重要です。

通常使われるニスより屋外での耐久性がある日本伝統の柿渋塗料を使いました。

従来の柿渋塗料は独特の匂いが強かったのですが、今回使用した右の物は無臭に改良されていて使いやすいです。

柿渋は水性塗料ですので墨の上から塗って滲んだりしないか心配でした。それで裏側で試験しましたが大丈夫でした。

表面を墨入れして一晩乾燥後に塗りましたが、まったく問題ありませんでした。

柿渋はニスと違って、写真のように仕上がりが赤っぽい色になります。

元の位置に掲げる

自治会の行事開催日の朝に、自治会館に持ち込み取り付けました。

上部にくぎに引っ掛ける穴があるのですが、下は何もありません。それで風でバタつかないよう、両面テープで固定します。板が反っているので、車のスポイラー取り付けに使う2mm厚の両面テープを2重に貼ったらしっかり固定できました。

完成記念に、この表札の修復を言い出した方と記念撮影です。

自然派の女性に「柿渋を使ったので赤っぽくなりました」と説明したら、「周りのレンガ調の壁と合っていますね」と言ってくれました。

今回はクスノキ、墨、柿渋と日本伝統の耐久性材料の組み合わせになりました。この看板が朽ちる頃私はこの世にいないでしょうが、次世代の人はどう評価してくれるのでしょうか。

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